「毬姫牛」大きく育て/イチカワファームがブランド交雑牛/八戸

「A5」を獲得した毬姫牛のロース肉

 青森県八戸市市川地区で和牛と乳牛を掛け合わせた交雑牛の肥育を行う「イチカワファーム」(市川秀廣社長)は、今年から自社ブランド牛の生産を開始した。名前は「毬姫(まりひめ)牛」。肉質が柔らかい雌牛だけにこだわり、味は上品な甘みが特徴だ。交雑牛で出にくいとされるA3以上に安定的に格付けされている。

 8月25日、同社の取締役市川広也さん(36)の元に、出荷した毬姫牛が最高ランクのA5を獲得したとの知らせが入った。牛肉は肉質や肉の量を基準にA5~C1に格付けされる。広也さんは「(A5は)なかなか出ないのでうれしい。牛に過度な負担を与えず育てた先に、高い評価がつくよう頑張りたい」と話した。

 毬姫牛を扱う同市小中野の食肉卸「ヨシモトミート」の吉田元社長(57)は「県産交雑牛でA3以上が珍しい中で、A3、A4をコンスタントに出している。高級和牛の半値ほどで買えて、脂もさっぱりしていると、女性客の人気が高まっている」と話す。

 イチカワファームは1976年設立。近年は肉牛メーカーから預かった子牛を出荷時まで育てる預託事業で安定した経営を築いてきた。2011年、広也さんが後継ぎとして東京からUターン。父・秀廣さん(66)に学びながら経験を重ねるうち、イチカワファームの牛を育てたいという思いが膨らんでいった。

 出会いも思いを後押しした。「海産物に並ぶ肉があればいいのに」という同市の飲食関係者の声を何度も耳にした。視察で訪れた海外では「高級和牛は高いし、もたれるので多く食べられない」と言われた。

 くどくない脂肪とおいしい赤身、そして手頃な価格-。この条件を満たすのは、雌の交雑牛だと広也さんは考えた。

 2019年、同社は預託契約を終了。自社ブランド牛の生産に向け始動した。雌牛ということもあり、名前は八戸に古くから伝わる「南部姫毬」にちなんで「毬姫牛」に決めた。商標登録は6月に完了。現在は約600頭を飼育し、来年までに1200頭まで増やす。脂肪がつきすぎないよう配合した飼料を与えるほか、牛の行動を24時間記録する装置を導入して健康状態を注意深く観察する。

 毬姫牛は市内の焼肉、和食、フレンチなどのほか、ホテルなど10店以上で提供されている。「炭火焼肉 無敵」では、メニュー全てが毬姫牛というこだわり。豊田貴光社長(48)は「地元に誕生したブランド牛を応援したい。おいしさも申し分ない」と話す。

 「海外市場にも目を向けていきたい」と語る広也さん。そんな息子を秀廣さんは頼もしく感じる。一方で新型コロナウイルスによる経済活動の落ち込みを目の当たりにして、自分たちだけよければいいという姿勢では将来は描けないと考える。「肥育農家だけでなく、販売店、飲食店、消費者、みんなが喜ぶやり方を考えてほしい」

 広也さんは「地元の人たちに助けられてここまで来た。毬姫牛は古里への感謝を込めて育てていきます」と話した。

毬姫牛となる子牛を見守る市川広也さん(右)と父の秀廣さん

毬姫牛のロゴ

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