「市民との絆誇り」十和田現美・鷲田新館長

常設作品の魅力発信を目指す、新館長の鷲田さん。後方は高さ約4メートルの常設作品「スタンディング・ウーマン」(ロン・ミュエク作)

 十和田市現代美術館(現美)の6代目館長に1日付で就任した鷲田めるろさん(46)が2日、東奥日報取材に応じ、新館長としての運営方針を語った。現美が2008年の開館以来築いてきた市民との協力関係に敬意を表するとともに、常設展示作品の魅力を最大限に引き出す考えを明らかにした。

 「まちに開かれた美術館」として、開館当初から現美に注目していた鷲田さん。ただ、現美と市民の結び付きの強さは予想以上だったと、十和田市に来て感じたという。

 「例えば、現美の企画展終了後、市内の店舗が作品を譲り受け店内に飾っている。ある市民は、作品制作で泊まり込む作家のために宿泊する場所を提供している。現美が開館以来12年かけて築いた関係性がある。これだけ深いつながりは全国でも珍しい。誇れることだ」

 現美の常設展示は1日現在、22人による25作品。いずれも世界に誇れる作品だと自負している。

 「現美の展示品は、建物と絶妙な関係をもって造られている。人が中に入ることができる体験的で大がかりな作品は、どれも見応えがあり素晴らしい。現美の展示は今後も常設展がメインだ。日本の美術館運営は企画展が中心だが、展示終了とともに人出も一過性で終わってしまう」

 「常設展は客が『1回見たからいいや』と思いがちなことが弱点。それを企画展で補う。常設作品の作家によるフレッシュな作品を企画展でそろえることで、作家の異なる作品を見比べながら魅力を再発見できる。常設作品でも見方を変えれば異なる良さが見えてくる、ということも市民に知ってほしい」

 アートを見る目が肥えると、同じ作品を繰り返し見る面白さに気付くという。面白さの蓄積はやがて人生の幅を広げることにつながる、と鷲田さんは言う。

 「作品の印象が高校生として見たとき、さらには40代、60代…それぞれで変わる。現美の常設展は何度も見に来たくなるそんな作品ばかりで、まるでアートが自分のふるさとになる。そういうアートがまちにあるのは宝なのではないか」

 新型コロナウイルスが猛威を振るい、イベントの自粛が全国的に続くが、現美は市民に扉を開き続けている。

 「感染拡大を防ぐことは大事。一方で、美術はやはり、人生になくてはいけないものだと思う。安全を確認できる限り、作品を見てもらう場所を全力で守り続ける」

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 <わしだ・めるろ 京都市生まれ。東京大学卒、同大学院修了。専攻は西洋美術史。金沢市の「金沢21世紀美術館」では開館前の1999年から準備作業に携わり、開館後もキュレーター(展覧会の企画者)を務めた。手掛けた企画展は2017年「ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展」日本館、国内の現代アートの祭典「あいちトリエンナーレ2019」など多数。妻と小3の長男を金沢市の自宅に残し、2月末から十和田市に単身赴任。「めるろ」は本名。由来はフランスの哲学者メルロ=ポンティから。影響を受けた哲学者の父・鷲田清一さんが名付けた>

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