“百万人の作家”主著ずらり/青森県近代文学館

表紙のデザインが目を引く、「プチ・ブックス」と呼ばれた講談社「石坂洋次郎文庫」

 青森県近代文学館(青森市)の常設展示作家のうち、特定の作家にスポットを当てて紹介する「エクステンド常設展示」で、「石坂洋次郎の主著」が開かれている。戦前・戦後に話題作を次々と発表した弘前市出身の作家石坂洋次郎(1900~86年)。「青い山脈」「若い人」などの代表作をピックアップし、生誕120年の節目を迎えた「百万人の作家」の業績を振り返る。

 森英一・金沢大名誉教授(弘前市出身)編の最新年譜(講談社文芸文庫「石坂洋次郎傑作短編選」所収)によると、石坂が生涯に発行した単行本は約90冊、文庫本は約100冊に及ぶ。同展ではこのうち、映画化されたものを含む知名度の高い作品の単行本のほか、全集的な叢書など全96点を展示している。

 葛西善蔵の影響を受けた私小説との決別やプロレタリア文学と異なる方向に進む分岐点となった「金魚」「麦死なず」、流行作家としての地位を確立した「若い人」はいずれも戦前の作品。戦後直後に発表されたベストセラー作「青い山脈」は初版本や表紙デザインが異なる第9刷、中国語本が並ぶ。自身を登場人物に投影し当時の地方都市の世情をユーモラスに描いた「石中先生行状記」、青春映画の原作となった「陽のあたる坂道」「あいつと私」も展示している。

 講談社が77年から発行した「石坂洋次郎文庫」全46巻は、通常の文庫本より小さく「プチ・ブックス」と呼ばれたもの。女性の顔や花を大胆にデザインに取り入れた表紙は、“青春もの”とは趣が異なり、新たな読者層の獲得を意識したと思われる。新潮社の「石坂洋次郎文庫」20巻(66~67年)、「石坂洋次郎短編全集」3巻(72年)も展示されており、昭和を代表する大作家の仕事内容が俯瞰(ふかん)できる。

 かつて絶大な人気を誇った石坂作品も今では多くが絶版に。石坂と同郷の文芸評論家三浦雅士さんも近著「石坂洋次郎の逆襲」(講談社)で「石坂洋次郎ほど時代とともに忘れられたと思わせる作家は少ない」と記す。一方で、石坂文学を必要とする社会の状態はいまも少しも終わっていないとして「忘れるには惜しい作家、いや忘れてはならない作家」とも述べる。

 同文学館文学専門主幹の竹浪直人さんは「出版された本の多さや、装丁の豪華さから、石坂洋次郎がいかに人々から強く愛された作家であったか、臨場感のようなものを味わっていただけたら」と話している。

 同展は11月25日まで。開館時間は午前9時から午後5時まで。入場無料。問い合わせは同館(電話017-739-2575)へ。

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