「孤高の詩人」に焦点 一戸謙三展/青森県近代文学館

1975年ごろ、76歳ごろの一戸謙三。木造町(現つがる市)の自宅で(個人蔵)

 大正から昭和にかけて青森県詩壇の中心的存在だった詩人一戸謙三(1899~1979)の足跡をたどる特別展「詩人 一戸謙三」が、青森市の県近代文学館で始まった。津軽方言詩の可能性を探る一方で、みずみずしく知的で多様な詩を編み出した「抒情(じょじょう)詩人」。生誕120年、没後40年を迎えた「孤高と追憶の詩人」の詩業に迫る。

 黒石市生まれの一戸は、弘前中学を経て慶応大医学部に進学したが、経済的理由で退学。中学卒業後に読んだ萩原朔太郎や福士幸次郎らの口語詩に感銘を受け、19年に青森県初の詩の結社「パストラル詩社」に参加し、本格的に詩作を始めた。その後、津軽方言詩集「ねぷた」や十二音句四行定型詩集「椿の宮」、「自撰一戸謙三詩集」などを送り出した。

 一戸といえば、高木恭造と並ぶ津軽方言詩の代表格。ふるさとへの熱い愛慕を朗々と詠み上げた「弘前(シロサギ)」、中学国語の教科書にも載った「麗日(オデンキ)」、学生時代を追慕する「悪童(ズロスケ)」。師・福士が主導した地方主義運動を方言詩という形で実践していった。

 一方、方言詩とは全く異なる側面も。欧州で興ったモダニズムを青年時代から吸収し、散文詩形式による伝統とモダンが結合した斬新な作品を生み出していく。さらに「月刊東奥」の方言詩選者を務め、多くの詩誌に投稿するなど、多くの後輩詩人をけん引した。

 特別展ではガリ版刷りの各詩集や、四行定型詩の自筆原稿のほか、試行錯誤の跡が見られる詩稿ノート、地元紙などに発表した多くの随筆執筆に不可欠だったネタ帳のスクラップブックや日記も展示。晩年に過ごしたつがる市木造の自宅書斎も再現した。

 同文学館の伊藤文一(よしかず)室長は「一戸の詩のキーワードは『孤独』『追憶』」と指摘した上で「津軽方言詩の育ての親であり、知性あふれ、著名な詩人と比べても水準の高い詩人でもあった一戸の多くの詩業を、節目の年に多くの人にぜひ知ってほしい」と話している。

 同展は9月23日まで(7月25日、8月22日、9月11日は休館)。入場無料。

 また、関連イベントとして、7月28日に詩人・ロシア文学者の工藤正廣北大名誉教授(黒石市出身)が「地方主義と方言詩-21世紀の津軽方言の可能性」と題して講演。一戸本人の肉声による「弘前」の音源も流す。8月18日は、昭和戦前期の詩人を研究する中嶋康博氏が、方言詩以外の一戸作品の魅力を紹介。地元アナウンサーによる朗読も行う。いずれも県総合社会教育センターで。

 9月15日は県立図書館で、伊藤室長の講演「一戸謙三と方言詩」も行われる。

 問い合わせは同館(電話017-739-2575)へ。


詩集「悪童(ズロスケ)」の中の四行詩「春」。見返しには石坂洋次郎に宛てた献辞が記されている(県近代文学館所蔵)

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