「幻の穴堰」閉鎖 先人の志、後世に伝える手段模索/十和田

2021年7月、「幻の穴堰」内部を見学する十和田西高校(当時)の生徒たち。穴堰は地元の歴史を体感できる場として活用されてきた

 幕末の三本木原開拓事業で人工河川・稲生川の第2次上水工事として着手され、未完成に終わった「幻の穴堰(あなぜき)」(青森県十和田市)の歴史を伝える活動が終了の危機を迎えている。多くの見学者を受け入れてきた穴堰の管理事務所は12月中の閉鎖を決定。関係者は、後継者不足や穴堰の歴史的価値が浸透しなかったことを理由に挙げ「当時の技術力や先人の夢と志を後世に残す手段を考えなければ」と活動継続を模索している。

 11月末、穴堰の入り口付近に、管理事務所関係者らの手で土のうが積み上げられた。今後、重機で土をかぶせて穴堰を閉鎖する。

 穴堰は、開拓事業で知られる新渡戸傳の長男・十次郎(稲造の父)が中心となって掘削した全長約950メートルのトンネル。同事業では奥入瀬川から水を引き1859年に稲生川の上水に成功したが、取水量が足りなかったため66年に新たな穴堰の掘削が始まった。しかし十次郎の急逝で中断、未完のトンネルが残された。

 一時は老朽化により立ち入りを禁止されていたが、同市のミカヒ農林などが整備し、2016年10月から一般公開を開始。「新渡戸十次郎と『幻の穴堰』を学ぶ会」が管理していた。

 掘削から150年を経た現在も、内部にはつるはしの跡などが残る。空気の循環や崩落防止の措置、水流の均一化を図る高低差など掘削に当たった「南部土方衆」の技術力がうかがえる。最後の見学者となり、土のう積み上げにも協力した市内の69歳と70歳の女性は「手で掘る労力や十次郎の功績など、歴史に触れられた。閉じるのはもったいない」と惜しんでいた。

 穴堰閉鎖について、地権者でミカヒ農林の中野英喜社長は関係者の高齢化に触れ「開拓の歴史を学び、市民の愛郷心を育む大切な場所。何とか残したいが核となる若い後継者がいない」と語る。

 市民団体「新渡戸十次郎『開拓開業まちづくり』顕彰会」主宰で穴堰の案内人を務める奈良哲紀さんは、歴史的価値が思うように広まらないことも理由に挙げる。穴堰は市内小中学校の課外学習コースの一つとなっているが、奈良さんは「『酸素がなさそう』『崩れそう』などとして穴堰の中を見学しない学校が多い。地元の歴史を体感できる場なので、子どもたちにこそ見てもらいたいのに」と嘆息する。

 管理事務所は、十次郎の命日(旧暦12月24日=新暦1月18日)にちなむ形で今月24日に閉鎖。これまで新渡戸基金(盛岡市)などと協力し、十次郎の功績や開拓の歴史に関する勉強会を開いてきたが、来年3月以降の開催は白紙となった。奈良さんは「十次郎は農地を広げるという傅の開拓計画からさらに踏み込み、多くの人が集まって仕事に就き、豊かに暮らせる、未来を見据えた定住圏構想を抱いていた。穴堰もその試みの一つ。何らかの形で今後も語り継ぎたい」と話す。

 市教育委員会は「(閉鎖しても)穴堰自体は存在するので、周辺にある開拓の歴史を示す石碑などと共に、今後も子どもたちに郷土の歴史として紹介していきたい」としている。

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