弘前を巡って桜ミクの「まんじ札」集めなどを楽しんだ、りのあさん(右)一家(提供写真)

 バーチャルシンガー初音ミクから派生したキャラクター「桜ミク」を活用した青森県弘前市の観光誘客策が5年目を迎えた。国内外から年間2万人以上が訪れるなど「桜ミクの街」として定着し、今年も4、5月のイベントを多くのファンが楽しんだ。観光関係者は「若者や訪日客に弘前を知ってもらうきっかけの一つ。海外へのPRにも力を入れたい」と語る。

 茨城県のミクファン・りのあさん(交流サイト=SNS=のハンドルネーム)と夫のけーのさんは大型連休中、幼い娘と3人で弘前を訪れた。桜ミクのTシャツ姿で弘前城やりんご公園などを巡り、SNSで「りんごの花が満開!」「楽しみにしていたケーキセット 美味…」などと発信。菓子店を巡って桜ミクのイラスト付き「まんじ札」を集める企画などを楽しんだ。

 初音ミクが歌う楽曲や動画は国内外問わず人気で、伝統芸能やアート、地域イベントなどさまざまな分野とコラボレーションしている。桜ミクなどの派生キャラも生まれた。りのあさんは「ミクをきっかけにさまざまな創作や出会いがあるのが魅力で、生活の彩りになっている。弘前でも人の温かさに触れたり、おいしいお菓子に出合えたりした」と語る。

 弘前観光コンベンション協会によると、さまざまな桜ミクグッズを展示販売し「桜ミクの聖地」と呼ばれる市まちなか情報センターには昨年度、約2万3千人のファンが訪れたとみられる。仮に半数が宿泊や飲食、グッズ購入などで1人当たり3万~5万円を市内で使ったとすると、消費額は年3.5億~5.5億円。何度も来県するのもファンの特徴で、熱心なリピーター観光客を獲得したのと同じ効果だという。

 市や同協会は毎春、桜ミクのフラッグで街を飾り、観光名所に写真撮影スポットを設置。ファンが商店街を巡るイベントを仕掛けるなど、ファンと地元どちらも喜ぶ企画に力を入れる。

 同協会の白戸大吾事務局長は「初音ミクは海外では、宮崎駿監督作品や漫画ワンピースなどと同レベルの人気。世界中からファンが訪れる街にしたい」と意気込む。

▼商店 温かく受け入れ

 桜ミクファンの間では、弘前さくらまつりなどと同時開催するイベントに合わせて弘前市を訪れるのが定番。観光時期の市内はキャラクターTシャツを着たりコスプレしたりしたファンの姿が当たり前になりつつあり、地元商店主らも温かく受け入れている。

 同市亀甲町の菓子舗「石崎弥生堂」は、コラボレーション企画「桜ミクまんじ札」を買いに来るファンのため、店に桜ミクのぬいぐるみを飾って出迎えた。自身もファンという従業員の石崎ゆかりさん(41)は「菓子などを通じて弘前に興味を持ってくれるのがうれしい。『来年もコラボしてよ、また来るから』と言ってくれた」と話す。

 同市東長町の菓子店「あずき庵」の須藤喜保子さん(49)はコスプレした女性客に出会い「ミクちゃんそっくりで、びっくりした」と笑顔。ファンの人たちとどう接すればいいか最初は戸惑ったが「話しかけやすい人とはいろいろ話すし、『壁』をつくってる人はそっとしておく。一般の客と対応は変わらないね」と語った。

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初音ミクと桜ミク 初音ミクは2007年に発売された歌声合成ソフトと、同ソフトのキャラクター。歌詞やメロディーを入力すると、どんな歌でも歌う。ソフトを使ったさまざまな楽曲や動画が動画投稿サイトで発表されて爆発的な人気になり、ユーチューブ公式チャンネルの動画再生回数は約2億5千万回。日本のサブカルチャーの代表的な一つとして世界中にファンが広がる。桜ミクは髪や服の色などが異なる派生キャラで、19年に弘前さくらまつりの公式応援キャラに就任した。

桜ミクのぬいぐるみなどでファンを出迎えた石崎さん

弘前市が観光誘客に活用する桜ミクⓒCFM


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