自衛隊ねぶた出陣60周年、雪中行軍題材に

制作した小財さん。台に上がったのは擬人化した白魔と戦う後藤伍長(向かって左側)

 2日に開幕する青森ねぶた祭で、出陣60周年を迎える青森自衛隊ねぶた協賛会が新境地の大型ねぶたの制作に挑んだ。題材は1902(明治35)年1月の「八甲田雪中行軍遭難事件」で奇跡的に発見され、後に銅像になった後藤房之助伍長=当時(22)。歴史上の武将や神話ではなく、実在する近代の人をモデルにするのは珍しい。ねぶた師の小財龍玄さん(45)は「平和を考えるきっかけにしてもらえたら」と思いを口にした。

 資料によると、記録的な暴風雪により、訓練に参加した旧陸軍青森歩兵第5連隊の210人中199人が犠牲になった。後藤伍長は上官からの命を受け、救助隊の要請に向かった人物。志半ばで歩みは止まったが、その使命感から立ったまま仮死状態に。深い雪の中でもその姿は救助隊の目に留まり、他の兵士たちの発見につながったとされる。「山岳史に残る世界最大規模の遭難事故」とまで言われるこの行軍は、日露戦争(1904~05年)を前に行われた雪中耐寒の訓練だった。

 自衛隊では2年前に三国志、昨年は玄天上帝をテーマにしていたが、趣向を変えた新たなチャレンジだった。結果的に無謀な訓練を強いられ、犠牲を生んだ雪中行軍。小財さんは「ねぶたを通して雪中行軍について思い出してほしいと思った。忘れ去られる悲劇にもう一度目を向けてもらい、現代に生きる感謝を持ってほしかった」と語る。

 台に上がるのは擬人化した「白魔」と、それに立ち向かう後藤伍長。当時の銃や服装など細部を調べるため「何度も幸畑の資料館に足を運んだ」という。綿を使って吹き荒れる雪を表現するのには苦闘した。

 加えて特徴的なのは、後藤伍長らが着る外套(がいとう)だ。ねぶたに登場する人物の多くは着物など柄のある衣服を着るが、今回は無地。スプレーでの塗料吹き付けを多用し「服のしわや陰影を出した」と説明する。

 険しさがまざまざと表現された正面と変わり、送り絵は八甲田山系の自然の美しさや穏やかさを描いた。「仙人」の愛称で親しまれ、酸ケ湯温泉で山の案内人を務めて雪中行軍の捜索にも携わったとされる鹿内辰五郎(1880~1965)が登場。隣には鹿内が横笛を吹いたら飛んできた-と言われる両翼に白丸の文様を持った「神鷹」がたたずむ。横笛を吹く鹿内は柔和なほほ笑みを浮かべる。「自然は決して怖いだけじゃない。八甲田山系の壮大さは私たちを魅了する」と小財さんは言う。

 斬新なねぶたは7月28日に台上げされ、同31日に初めて全体が点灯された。小財さんにとってはデビューして2作品目となる今作。まだまだだな-と話す一方「後藤伍長の立ち向かう表情などは(うまく)できたと思う」と手応えをのぞかせた。「今ある平和への感謝、そして青森県の自然の厳しさと美しさを、多くの人に届けたい」。60回目の夏へ、いざ出陣だ。

青森市

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