1976年の第1句集「地霊」刊行時、55歳の成田千空(千空生誕一〇〇年記念会提供)

 全国的な俳句結社「萬緑(ばんりょく)」の代表を務め、戦前から青森県俳壇に大きな足跡を残した俳人成田千空(1921~2007年)が、31日で生誕100年を迎える。五所川原市を拠点に、津軽の風土と人間性を作品に打ち出し、「東北に千空あり」とうたわれた。節目の年に句業を振り返るとともに、作品世界の魅力を再発見しようと、県内で企画展などが相次ぎ開かれる。

 4月1日から1年間、企画展「生誕一〇〇年 成田千空展」を開催するのは弘前市立郷土文学館。句集や色紙、短冊、日記、書簡、写真などをそろえ、千空の句業をたどるほか、萬緑で千空を編集・運営面で補佐した、「森の座」代表の横澤放川さん(埼玉県)が千空の俳句の魅力を紹介。晩年まで意識し続けた太宰治や、俳句を指導した寺山修司ら同郷の文人、師・中村草田男、同世代のライバルでもあった金子兜太らとの“出会い”も披露される。

 同文学館の櫛引洋一企画研究専門官は「千空は弘前をはじめ津軽の俳人や文化人にも大きな影響を与えた。地域に根差した千空の俳句をもっと多くの人に知ってもらえれば」と話す。

 千空が名誉市民の五所川原市では、文化関係者らによる「千空生誕一〇〇年記念会」が今月31日から4月30日まで企画展を立佞武多(たちねぷた)の館で開催する。俳句だけでなく、地元の文化振興に関わった側面なども紹介。版画家藤田健次さん(八戸市)による14点の「千空句版画」や写真ギャラリーのほか、立佞武多制作者の福士裕朗さんが手掛けた造形物「ウェルカムライト」や「千空絵巻」も展示する。

 同市と中泊町を結ぶ津軽鉄道は、今月31日に「生誕記念号」(完全予約制)を運行する。4月1日から30日までは普通乗車券で乗車できる「千空号」を運行。記念プレートを付け、車内に千空の俳句やゆかりの地、人物を紹介した沿線案内を展示する。

 「千空は俳句というジャンルの可能性を追い続け、ひたむきに生きる人間への慈愛に満ちた作品を残してくれた」。「記念会」メンバーで、評伝「成田千空伝」などを著した齋藤美穂さん(五所川原市)は生誕100年の意味をこう表す。「千空の真の功績が時代やジャンルの進展の中で今後、明らかになるはず。節目節目に千空研究の深まりを確認することで時代につなげていければ。千空を知る人、知らない人にも新しい発見があるならばうれしい」

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 <なりた・せんくう 本名・力(ちから)。青森市生まれ。1941年に俳句を始め、郷土主義の俳句結社・松濤社に入会後、青森俳句会に参加。その後、五所川原市に移り住み、農業と句作の日々を送る。46年の「萬緑」創刊から参加し、中村草田男に一貫して師事。その後、書店を経営しながら投句を続け、53年の第1回「萬緑賞」を受賞。中央俳壇でも活躍し萬緑の選者、代表を務めた。俳人協会賞や蛇笏賞、詩歌文学館賞などを受賞。89年に東奥賞>

弘前市立郷土文学館の企画展「生誕一〇〇年 成田千空展」の図録

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